【HINUITO 中村諒さん、翼さん】地域ならではの魅力を伝えるために
3月15日、日貫にオープンした「世界の手仕事屋 HINUITO(ひぬいと)」。
お店を営む中村諒さん・翼さんは、海外80か国を巡った経験のある旅好きなご夫婦です。
今回は、2人が日貫へやってきた4年半前からこれまでの歩みを尋ねました。
自然に近い暮らしを求めて
20代前半、いずれは海外に住みたいと思っていた翼さん。旅を通じて出会った諒さんとさまざまな国を巡るうちに、昔ながらの文化や自然が残っている土地に魅力を感じるようになったといいます。
「海外でももっと田舎の方に行くと自分の知らない世界があって。(都市部より)そっちのほうがワクワクして面白いなって思っていました」
そんなあるとき、東京を観光にやってきた海外の友人から衝撃的な一言が。
『日本って韓国と同じような都会じゃん。それなら韓国のほうが近いし、別に日本まで来なくてもいい』
なんでもその友人は、東京の秋葉原やロボットレストランなどに行き、都会はどこも似たり寄ったりだと言いたかったようです。
「え、ちょっと待って、となりました。東京だけを見て日本を判断しないで、と。すごくショックだったんです」
この出来事が、ふたりにとって日本の伝統文化・自然に目を向けるきっかけになりました。
「でも、東京で育った私のルーツってなんだろう。地域のお祭りもない、独自の方言もない」
翼さんは東京出身。海外の友人に魅力を教える前に、自分自身が日本の文化や自然について知りたいと思うようになり、田舎への移住を考え始めたといいます。
日本全国を旅して住む場所を探そうと思っていたさなか、母親との会話のなかで日貫を知った翼さん。
「(日貫に)来てみると、石見神楽や田植え囃子など伝統的な文化が残っていて、自分のイメージとぴったりでした。ここでなら、自然に近い暮らしができるかもと思ったんですよね」
諒さんの故郷、金沢のご家族もはじめはびっくりしていた様子でしたが、快く送り出してくださったとのこと。
ふたりの日貫での生活は4年半を迎えています。
自然に近い暮らしの現実
昔ながらの文化・自然のなかで生活したいと日貫にやってきたふたりですが、いざ暮らし始めるとギャップもあったそう。
「実は若い人が少なくなってきていて、お祭りや石見神楽の継承が難しくなっていること。そもそも、若い人はそこまで興味がなくなっているという現状を知りました」
自分たちが思っている以上に、こうした文化は消えつつある。現状を目の当たりにしてハッとさせられたといいます。
さらに「もっと子どもたちも山に入って遊んだりしているのかと思ったら、意外とそうでもないんですね」と話す翼さん。
都会とあまり変わらない生活スタイルが意外だったと語ります。
ギャップはあれど、日貫でしかできない暮らしをしていこうと始まったふたりの生活。
年々少なくなっている石見神楽の舞い手を担い、秋の奉納に向けて練習に励んでいる姿からもその様子がうかがえます。
「働く」ことのスタイルについて
ふたりのなかで一番悩んだという「働き方」のスタイル。
自分たちで事業を興し、生計を立てて暮らしたいという思いが強くありました。
今や働き方が多様化した現代ですが、移住してすぐは、会社に勤めずにいることを住民から共感されている感覚は薄かったといいます。
「やりたいことを仕事にするまでが大変で、たくさん試行錯誤を重ねてきました。だけどそこが周りからは見えないから、『働いていない人』と思われていた気がします」
そう苦笑いしながら話す翼さん。「どれだけ日貫に貢献しているかを常に見られているような気持ちもあった」と続けます。
「自分たちのやりたいことと住民が求めていることが一致していないと、このまま日貫に住み続けていいのかなって気持ちになることも多くて…」
日貫のような田舎では、貴重な若い人材に寄せられる期待の目はとても大きいもの。移住者となると、なおさらプレッシャーを感じずにはいられないのだと、チリチリと心が痛みました。
町への貢献度が住み続けていい理由にならないように、私たちもできることを考えていきたい。
だれもが自分らしく住み続けられる、居心地のよい町とは。またひとつ、今後のキーワードになりそうです。
現在は「世界の手仕事屋 HINUITO」の営業、多文化交流イベント「つながるーむ」の運営とお忙しのふたり。
その上、野菜や米を育て、チャボの世話をし、シェアメイトの受け入れや、海外への買い付けまでこなしているタフさには驚かされます。
諒さんは「海外に関わることをしている人」という認知が邑南町でも少しずつ広がってきていると話します。
「声をかけてくれる人が増えたのは大きな一歩。『海外の人とこういうことをしたいのだけど、会議に一緒に来てもらえますか』『今までどんなことをされていましたか』といったような相談が増えました」
「とはいえ、金銭的にはあまり変わらないです。なにせほとんどがボランティアなので…。なかなか利益を上げるのって難しいですね」
生計を立てるって難しい、それでも、ふたりの目指す暮らしは日々確かなものになっています。
日貫のサグラダ・ファミリア、ついにお披露目
日貫に来て、自然建築・パーマカルチャー1などの言葉を知り、自然に近い暮らしを根本から学ぶことが多くなったと話す翼さん。
「空き家を見て、こういう風に朽ちていくんだと家の最期の姿を想像したのは初めて。ならば、きちんと自然に還る家づくりがしたい」
そう思うようになり、住まいである古民家を自分たちの手で改修し始めました。
諒さんは「日貫は人との距離が近いから、大工さんにもいろいろな話を聞ける。顔が見えるところで応援してくれる人がたくさんいて、どんなことでもチャレンジしやすい環境」といいます。
1年以上かけて手作業で改修を続け、今年3月に念願の「世界の手仕事屋 HINUITO」をオープン。
おふたりはまだ完成形ではないこの家屋を、100年以上完成しないスペインの世界遺産とかけて、「日貫のサグラダ・ファミリア」と呼んでいます。
バルセロナのシンボルともいえるサグラダ・ファミリア。こちらも、日貫を象徴するような観光地のひとつとして長く愛されてほしいですね。
地域の魅力に気付く機会を
「世界の文化を知ることで、改めて地元の魅力に気付くきっかけを作りたい」
そんな思いのもと、活動を続けているふたり。
諒さんは「この店を通してお客さんが海外に行くきっかけになり、そのお客さんと海外のトークで盛り上がるのが夢」だと話します。
中国山地の山奥、閉ざされたように見えるこの集落に、世界中とつながる可能性が広がっている。
「世界の手仕事屋 HINUITO」には、考えただけでもワクワクするような出会いのタネが眠っていると感じました。
ふたりは今日も、タネを集めて探す旅へ。あちこちで芽が出て実になるまで、自分達の足で世界中を歩き続けています。
- 1.「パーマネント(永続性)」+「アグリカルチャー(農業)」を組み合わせた造語。永続可能な農業を軸とした暮らし方や考え方をさす ↩︎
ちょこっと一問一答
Q:海外で印象に残っているエピソードは?
Q:海外に行くならココ!というおすすめの国はありますか?
Q:これからの夢は?