人物紹介

【宝光寺住職 山本昌利さん】時は今 400年の歴史をつなぐIターンの住職とUターンの息子

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日貫の北側、山の中腹に向かって一直線にのびる石段を登った先にある「宝光寺」。

長らく住職不在だったこの寺に、現住職の山本昌利(やまもとまさとし)さんがやってきたのは、今から約25年前のこと。

家族とともにIターンで、この地に越してきました。

「やまちゃん」と呼ばれ親しまれる住職。

日貫の一観光地としての「宝光寺」を取材するなかで、人々に慕われる住職の人柄を知りました。

そして、2022年、都会から日貫へUターンしてきた息子の将士(まさし)さんへ託す未来のことを聞きました。

「やまちゃん」の愛称で親しまれる住職

大学在学中、ボランティアを通じて知り合った先輩の誘いで僧侶になった山本さん。

島根県松江市内の寺で修行を積んだ後、宝光寺を紹介され、移住を決めたそうです。

以来、この日貫で人々とのかかわりを深めてきました。

桜のライトアップを始める

宝光寺のシンボルとも言える大きな桜の木。山本さんが日貫へ越してきた時には、今の半分ほどの高さでした。

ライトアップを思いついたのは、日貫に来て初めての春。

「私、もともと桜が好きでね。ここ(日貫)へ来たらいい桜があるから。見上げるとワーっと幻想的だなと思って、ライトアップをやろうと思いついたんだよ」

それから約25年、桜は大きく成長して、日貫で知らない人はいないほどの春の風物詩になりました。

「ソメイヨシノは寿命があるからね」と、実は二代目の桜のライトアップも始まっています。

どこにあるか、みなさんも探してみてくださいね。

ちなみに初めてライトアップした夜は、ちょっと日貫を賑わせたそうですよ。

「その時は何も言わずにやったからね、総代長があわててとんできてね、寺が火事だって」

ちいさな町、日貫ならではのくすっと笑えるエピソード(当時は笑えない大ごとだったと思いますが)。総代長さんの慌てぶりが目に浮かびます。

暮らしを見つめ、日貫に生きる

日貫の人にとってはおなじみの掲示板。月に2回、その時に感じたことや季節にあったことを山本さんが自筆しています。

今はすっかり子どもの数が少なくなった日貫ですが、子どもたちにも伝わるような内容にすることを心がけているそう。

そんな山本さんに「一番好きな言葉」を聞きました。

「時は今 ところあしもとそのごとに うちこむ命 とわの御命」

「時は今なんだと。人間というのはいつも、昨日のことをうだうだ言っていたり、まだ来ない明日のことを心配したり。そんなの関係ないということ」

「そして日々、いろんな場所でいろんな心配事があるけれど、自分の足元、家族、日貫で起こっていることを心配すること」

「とわの御命っていうのは、浄土宗的には阿弥陀さんに救われていく世界があるんだけど。そうじゃないとしても、目の前のことに一生懸命うちこむことが、永遠の命につながっていくということかな」

先のことを考えて不安を抱いてしまう私にとって、とても心に響く言葉でした。

日々起こることに一喜一憂せず、地に足つけて毎日を歩む。それが結果的に、長い人生のなかで実を結ぶのだと受け取りました。

そして、とかく外へと意識が向かいがちな地域おこしのあれこれも「まず日貫での暮らしを見つめ、考える」ことが大切だと、そう教えていただいたような気がします。

Uターンの息子に託す400年の歴史

「午前6時の鐘つき、ここにきてからずっと欠かせない日課だったんだけど、息子にゆずっちゃったよ」

残念がる仕草をしつつ、心なしか嬉しそうな山本さん。

「二日酔いで大変だった時も、寝坊しかけたこともあったね」と笑いながら教えてくれました。

今まで意識せず聞こえてきていた鐘の音に、山本さんの生活が見え、これからは親子のやりとりまでも見えるような気がします。

「これからしたいことは、とにかく息子に継がせること。簡単なように聞こえるけど、400年の歴史があるから責任も大きい」

2026年、宝光寺は400年の節目の年を迎えます。

引き継ぎはどのぐらい終わっているかと尋ねた私に「それは難しいね。ノウハウとか、引き継がなきゃいけないことはない。本人のやる気次第。0か100か、本人が覚悟を決めたらそのときが世代交代だから」という山本さん。

息子の将士さんが覚悟を決めたとき、今度は彼にもぜひお話を伺いたいなと思いました。

おわりに

今回は、ご住職の山本昌利さんへスポットを当ててお話を伺ったのですが、実は息子の将士さんも近くにいらっしゃって、そっとお話を聞いておられました。

山本さんのお話は本当に面白く、たびたび私たちを笑わせてくださり、話が盛り上がって脱線しそうになると将士さんがたしなめる、というパターンが数回ありました。

その構図もなんだか面白く、終始ほっこりとした気分で取材させていただきました。

400年の節目の年に向けて、今後もおふたりのかけ合いを楽しみにしています。

宝光寺の歴史はこちらの記事にまとめていますので、ぜひご覧くださいね。

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